「急がば回れ」という諺がある。
急いで物事を成し遂げたいとする時は、近道を行くよりも、遠回りを行くほうがかえって得策だという含蓄のある言葉だ。
朝日が昇り終えて暑くなり始める10時、レポートのための資料情報を手に入れるために私は最寄り駅前の、徒歩15分もかかる市立図書館まで歩いていた。
地元の市立図書館の中央館は最寄り駅から一駅先にあるが、定期券も切れている上にこれから気温も上がっていく中を歩きたくはない。徒歩圏内にある分館で用事を済ませようという魂胆だ。遠回りなどしたくない。
午前中のうちに帰れたらいいなとか考えながら図書館に着いて近くにいた年若い職員の方に要件を伝えると、快く目的の資料を持ってきてくれた。
【平成30年度版】
「すみませんね~ここは分館だから今はこれしかないのよぉ」
おそらくここで一番上の職員なのであろうご婦人が申し訳なさそうに奥から現れた。
2年前のものか……。資料が最新のものである必要はないのでこれでもいいかもしれない。レポートにそう記載すればいいだけだ……そう逡巡していると、婦人職員さんがあまり考えたくなかった提案をしてくれた。
「中央館だったら最新のものがあるかもしれないわね」
やはりそうなのか。頭の端では考えていた道だが実際に提示されてしまった。遠回りなどしたくないのに。
職員の方へのお礼もそこそこに外へ出た。どっと気怠くなったのは昼前の蒸し暑い空気が体を包み込んだせいだけではないだろう。
すぐ近くの駅から電車に乗った。切符を買って電車に乗ったのはいつぶりだろう。定期の残高は40円だった。
目的の駅に着くと太陽はすっかり真上近くまで昇っていた。だが中央図書館は少し駅から距離がある。
なので歩く。熱射の中を歩く。あまり中央図書館には行ったことがなかったが、だいたいこの辺だろうという目測で歩いていたら大幅に道を間違えていたらしい。遠回りになってしまった。
ようやく目的地に着いた。ドアをくぐった瞬間クーラーの冷気が私を労うように包み込んでくれる。
汗をぬぐいながら職員の方に要件を伝えると、すぐに資料を取りに行ってもらえた。随分長く遠回りをした気がするが、ようやく今日の用事が終わる。
「すみませんね~これしかなかったんですけど」
【平成28年度版】
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